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東京地方裁判所 平成7年(ワ)13982号 判決

原告

加持尚男

ほか三名

被告

平和自動車交通株式会社

主文

一  被告は、原告らそれぞれに対し、金五〇九万六三二二円及びこれに対する平成七年八月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを五分し、その二を原告らの負担とし、その余は被告の負担とする。

四  この判決は、一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告らそれぞれに対し、金八六一万〇二九七円及びこれに対する平成七年八月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  争いのない事実

1  平成七年二月八日午前九時四一分ころ、東京都江戸川区船堀三丁目一番地先の信号機の設置されている交差点付近において、被告所有の普通乗用自動車と手塚智運転の自動二輪車とが接触したため、手塚智が自動二輪車から投げ出され、右自動二輪車が、無人の状態で、交差点左角で信号待ちをしていた加持リン(以下「リン」という。)に衝突した(以下「本件交通事故」という。)。そして、リンは、大腿骨及び骨盤骨骨折を原因とする出血性シヨツクにより、同月九日死亡した。

2  原告らは、リンの子で、その相続分は四分の一ずつである。

3  被告は、本件交通事故につき自動車損害賠償補償法三条所定の責任を負つている。

二  争点

争点は、リンの損害額についてである。

1  原告らの主張

(一) 葬儀費 一二〇万円

(二) 逸失利益 主位的主張 八二四万一一八九円

予備的主張 一三三万五二八八円

(1) 主位的主張(リンの家事労働に基づく逸失利益)

リン(大正五年一一月二日生まれ)の死亡時の年齢 七八歳

六八歳以降の女性の年間給与額二五九万三二〇〇円(月収は二一万六一〇〇円。)

五・二三年(七八歳の平均余命一〇・四六年の二分の一)の新ホフマン係数 四・五四

生活費控除率 三〇パーセント

したがつて、リンの逸失利益は、次の計算式のとおり八二四万一一八九円となる。

2,593,200×(1-0.3)×4.54=8,241,189

(2) 予備的主張(リンの年金受給権喪失に基づく逸失利益)

リンが、平成六年一〇月から受け取つていた老齢年金の年額 五七万六四〇〇円

生活費控除率 七〇パーセント

一〇年に相当するライプニツツ係数 七・七二二

したがつて、リンの逸失利益は、次の計算式のとおり一三三万五二八八円となる。

576,400×(1-0.7)×7.722=1,335,288

(三) 慰謝料 二二〇〇万円

(四) 弁護士費用 三〇〇万円

よつて、原告らは、被告に対し、主位的主張として八六一万〇二九七円、予備的主張として六八八万三八二二円(リンの損害額(主位的主張三四四四万一一八九円、予備的主張二七五三万五二八八円)のうち、原告らそれぞれの相続分である四分の一に相当する額)及びこれに対する本件交通事故の後である平成七年八月二日(本訴状送達の日の翌日)から民法所定の年五分の割合による遅延損害金につき、それぞれ支払を求める。

2  被告の主張

(一) 葬儀費

一〇〇万円が相当である。

(二) 逸失利益

(1) 主位的主張(リンの家事労働に基づく逸失利益)

リンは金銭に評価し得るほどの家事労働をしていなかつたから、リンの逸失利益を算定するために、賃金センサスにより収入金額を決めるのは相当でない。

仮に、賃金センサスによるとしても、七八歳(リンの死亡時の年齢)の年間給与額は二五九万三二〇〇円の半分であり、また、リンの生活費控除率は五〇パーセントである。

(2) 予備的主張(リンの年金受給権喪失に基づく逸失利益)

争う。

(三) 慰謝料

一二〇〇万円ないし一三〇〇万円が相当である。

(四) 弁護士費用

争う。

第三当裁判所の判断

一  リンの損害は、次のとおり、合計二〇三八万五二八八円と考える。

1  葬儀費 一二〇万円

リンの葬儀費用として約三五〇万円が支出されている(原告加持尚男の本人調書一四項)ところ、一二〇万円が、本件交通事故と相当因果関係がある葬儀費と認められる。

2  逸失利益 一三三万五二八八円

(一) 主位的主張(リンの家事労働に基づく逸失利益)

リンは原告加持尚男及びその妻と同一の建物に住んでいるが、一階にリンが、二階及び三階に原告加持尚男及びその妻が住んでいること、リンが、原告加持尚男及びその妻のために行つているのは、電話番、来客の対応、書留郵便及び宅配便の受取、たまに食事を作ることといつた程度であり、リンと、原告加持尚男及びその妻とは、食事及び買物もほとんど別々であること、洗濯も別々にしていたことが認められる(甲第一号証、乙第一号証、原告加持尚男の本人調書)。

これらのことからすると、リンは、専ら自己のために家事を行つていたものであつて、他人のために家事を行うことにより財産上の利益を上げていたとはいえない。したがつて、リンの逸失利益を算定するために、賃金センサスにより収入金額を決めるのは相当でなく、原告らの主位的主張は失当である。

(二) 予備的主張(リンの年金受給権喪失に基づく逸失利益)

リンの老齢年金は年額五七万六四〇〇円であり、(甲第二号証)、リンは、本件交通事故で死亡したことにより、右年金受給権を喪失したと認められるから、そのことが損害となる。

そして、リンは、大正五年一一月二〇日生まれであつた(乙第一号証)から、死亡した平成七年二月九日当時七九歳であつた。そうすると、七九歳の平均余命に相当するライプニツツ係数は七・七二二となる。

また、リンの年齢、同人に扶養家族がいないこと、年金受給額等を考慮すると生活費控除率は七〇パーセントが相当と考える。

したがつて、リンの逸失利益は、次の数式のとおり一三三万五二八八円となる。

576,400×(1-0.7)×7.722=1,335,288

3  慰謝料 一六〇〇万円

弁論に現れた諸般の事情を総合すると、本件交通事故でリンが死亡したことの慰謝料は一六〇〇万円が相当である。

4  弁護士費用 一八五万円

本件における認容額、訴訟の経過等を斟酌すると弁護士費用は一八五万円が相当である。

二  よつて、原告らの請求は、原告らそれぞれが、金五〇九万六三二二円(損害の合計二〇三八万五二八八円のうち、原告らそれぞれの相続分である四分の一に相当する額)及びこれに対する平成七年八月二日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限りにおいて理由があるから認容し、その余は理由がないからいずれも棄却し、主文のとおり判決する。

(裁判官 栗原洋三)

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